中小企業の従業員がメンタルケアを受けやすくなる制度

厚生労働省が、メンタルヘルスの専門ケアを受けにくい中小企業の従業員に、検診や治療を受けやすくする仕組み作りに乗り出すことになったそうです。

労働安全衛生法で、従業員50名以上の企業などについては産業医を決めるよう規定されていますが、産業医は必ずしも全員がメンタルヘルスの専門知識をもっているわけではなく、大企業とは異なって、精神科医らによる検診などもそれほど行われていない中・小企業の従業員のメンタルケアが課題になっていました。

今回の新しい仕組みでは、医師会や健康診断を行っている病院などを中核として、「登録産業保健機関」を設立するそうです。この機関には産業医のほか、精神科医らメンタルケアの専門家らが加わることを想定されています。地域ごとに組織をつくることで、職場の健康管理を担う産業医精神科医が連携しやすくなります。

窓口が一本化されることで、企業側は新たに精神科医を探す手間が省けるし、従業員もケアを受けやすくなるメリットがあるとのことです。

この仕組みの実現のためには労働安全衛生法の改正が必要で、早ければ次の通常国会に改正案を提出することを目指しているそうです。

ストレスコーピング①

ストレスコーピングとは、ストレスとうまく付き合うために、ストレスをどのように受け止め、どのように行動するかを考えることをいいます。私たちが生きていく上でなくすことはできないストレスを上手に対処することが大切で、適切なコーピングを行えば、心身を良好な状態に保つことができるだけではなく、問題をうまく解決することもできます。

ストレスコーピングの方法は、大きく以下の2つに分けられます。


①問題焦点コーピング

ストレッサー(ストレスの素)そのものに働きかけて、それ自体を変化させて解決を図ろうとすることです。たとえば、対人関係がストレッサーである場合、相手の人に直接働きかけて問題を解決する方法です。

②情動焦点コーピング

ストレッサーそのものに働きかけるのではなく、それに対する考え方や感じ方を変えようとすることです。たとえば、対人関係がストレッサーである場合、それに対する自分の考え方や感じ方を変える方法です。

問題焦点コーピングは積極的な対処法であり、情動焦点コーピングは消極的な対処法ともいえますが、どちらが正しいということはありません。どうしても変えることができないストレッサーの方が多いでしょう。その場合は、自分が変わる、気分を変えるしかありません。ストレッサーの種類や緊急度、周囲の状況、実行可能性、タイミングなどを総合的に考えて、もっとも適したコーピングを行うことが大切です。

こころの体温計

神奈川県の厚木市で、1月15日に自殺予防対策の一環として、携帯電話とパソコンを使用して簡単にメンタルヘルスチェックができるシステム『こころの体温計(通常モード)』を導入したそうです。また同時に、全国初の、家族が身内の心の状態を診断することのできる『家族モード』の供用を開始したとのことです。

このシステムは、東海大学医学部付属八王子病院健康管理センターの1日人間ドック受診者用に開発した『メンタルチェック』をベースとしたもので、人間関係や住環境、睡眠状況についてなど、計13問の質問に答えることで、回答者の心理を判定できるというものだそうです。判定結果は、金魚や猫などのキャラクターの表情で確認することができるそうで、判定結果に応じて相談窓口の紹介も行われます。

神奈川県では厚木市のほかに、相模原市平塚市秦野市の3市で『通常モード』を既に導入しているとのこと。

体の病気と違って心の病気は、本人も家族も「調子が悪いな」と思っていても、なかなか病院を受診しづらいものですが、まずは手軽に自己診断できるこのようなツールを使えば、病院の受診や相談窓口への相談に結びつくきっかけになるのではないでしょうか。


タウンニュース 記事より  http://www.townnews.co.jp/0404/2011/01/21/89244.html

躁極性障害

躁極性障害とはいわゆる躁うつ病のことで、躁状態うつ状態が交互にあらわれる心の病気です。

日本ではうつ状態だけのうつ病の人が圧倒的に多く、躁うつ病の人はあまり多くありません。しかし、うつ病の治療を続けていたら、回復したと思われる時期に急に躁の状態になり、実は躁うつ病だったということもあります。

うつ状態の時は典型的なうつ病と症状は同じですが、躁状態になると気分が高揚し、活動性が高まります。症状が軽いうちは行動的でやる気があるように見えますが、この症状が強くなると、大騒ぎをしたり、できそうもないような大きなことを言ったり、気が大きくなってとんでもないことをしてしまいます。

気前がよくなって高価なものを買ってしまったり、莫大な借金をしてしまう、攻撃的になり暴力をふるう、社会の規範を破るなど、さまざまな問題をおこします。しかも、自分が病気であることを全く自覚しておらず、家族をはじめ周囲の人は完全に振り回されて疲れ果ててしまいます。

発祥の年齢は比較的若い人が多いといわれています。原因はまだわかっていませんが、ストレスや環境などの外部からの影響はなく、体の内側からおこるとされています。

躁うつ病の治療は、休養と薬物療法が基本です。治療薬は炭酸リチウムが中心で、てんかんの治療薬も使われます。躁状態があまりに強い時は、トラブルを起こさせないためにも入院治療が必要になります。

ちゃんと治療を行えば一般的には数か月で治りますが、躁極性障害はたいへん再発率が高いと言われています。

喪失体験を乗り越える

配偶者や家族など、大切な人を亡くしてしまうという悲しい体験は、私たちが生きていく上で避けて通ることはできません。通常は、喪失後のショック状態、故人の事が頭から離れ難い時期を経て、喪失後の新しい環境に適応していくものですが、その過程で問題が生じ、うつ病など心の病気が生じる場合があります。

喪失体験から完全に回復するには半年〜1年はかかりますが、日常生活は1〜2ヶ月後には日常生活は機能し始めるのが普通です。しかし、2ヶ月以上も日常生活が機能しない状態が続く時や、その人が生きていると固く信じ込んでいたり、 自分も同じ原因でまもなく死ぬと信じていたり、死にたい気持ちが生じる場合は要注意です。

その人の死が思いがけ無い事で心の準備が全く出来ていない時、その人の亡くなられた状況がショッキングなものであった時、また、故人との関係が心の拠り所になっている場合などは、特に心の病気が生じるリスクが高くなります。

喪失体験を乗り越えるには、現実を受け入れることが出発点となります。まず、相手と別れたことを受け入れ、等身大で見つめ直すこと、また罪悪感を持つことも多いので客観的に現実を見つめ直すことが大切です。

そして、辛さや怒りといった自分の正直な感情を表に出して、心に葛藤が残らないようにする事が重要です。日本人は欧米人に比べて、喪失体験直後に激しく感情を表わし悲しむことが少ないため、回復に長く時間がかかるとも言われています。悲しみを回りの人に打ち明けることも、日本人には大切なことです。

また、できるだけ一人にならず、他人とコンタクトをとって孤立感を感じることを少なくすることも必要です。身近に自分を支えてくれる人がいれば、喪失体験から回復するのに大きな力になってくれるでしょう。

どうしても悲しみから抜け出せない時には、ためらわずに精神科や心療内科を受診し、治療することが必要です。喪失体験から抜け出せないままにしていると、対人関係が悪化し、さらに喪失体験を深めるという悪循環に陥ることもあります。

企業のメンタルヘルス問題の現状

IT企業、エレクトロニクス関連の技術系の会社では、うつ病を患っている人が社員の5%ぐらいいるそうです。こういった業種を選ぶ人は、もともと営業など人間関係が苦手なので、できるだけ人間関係のストレスが少ない技術系を選んでいるということも関係していると思われます。

しかし、いくら技術系といっても、ベテランになれば部下ができたり、関連部局の調整をしたり、客先との調整など、人間関係は避けて通ることはできません。

最近では多くの会社で、メンタルヘルス対策や研修を行っています。全従業員にカウンセリングを受けさせたり、うつ病の社員に、2〜3年の農業体験させることを計画している会社もあるそうです。ただ、多くの会社では何とかしたいと思っていても、そこまでやる余裕がないと考えている企業がほとんどではないでしょうか。

メンタルヘルス研修やストレス研修などを開催している会社でも、その多くが一般的な知識を教える研修にとどまっているのが現状のようです。

しかし、メンタルヘルス問題は単に健康問題の枠を超えた、大きな経営リスクになっています。厚生労働省の調査では、日本国内の精神障害による欠勤の労働損失だけでも、9468億9400万円にものぼるという試算がされています。

メンタルヘルス対策は、単なるコストが掛かるだけのマイナスの対策ではなく、人材の成長、企業風土の醸成、企業の利益へとつなげていける前向きな対策であると認識する企業がもっと増えることが望まれます。

職場復帰支援について

うつ病などの精神疾患で、休職期間が長期化していたり、休職と復職を繰り返していたりして、なかなか復帰が難しい人のために、職場復帰支援(リワーク支援)行う制度があります。独立行政法人 高齢・障害者雇用支援機構が行っています。

うつ病などをわずらっていても、対処方法を身につけながら無理なく復職できるよう、(1)生活リズムの立て直し(2)コミュニケーションスキルの習得(3)職場ストレスへの対処法の獲得を目的とするプログラムを提供し、復職に向けてのウォーミングアップを行います。障害者職業カウンセラーという専門職が支援を行います。

職場復帰支援を受けるに当たって、精神障害者保健福祉手帳は必要ありませんが、主治医からの診断書等により、うつ病等の精神疾患を有していることが確認できる人が対象になります。

相談窓口は、都道府県の障害者職業センターです。内容の詳しい説明や、どのような手続きをするかなどの相談に乗ってくれます。このほか、精神保健福祉センター、民間の精神科病院や診療所でも「デイ・ケア」として職場復帰支援を行っている場合があります。


職場復帰支援(高齢・障害者雇用支援機構)PDF